生まれてくるお子さんのためにママができることは、まず「ご自身のお口の中をきれいにすること」でしょう。身体だけでなく、丈夫な歯もママからのかけがえのないプレゼント。生まれたときはまだ赤ちゃんに歯はありませんが、歯の下地は、ママのお腹のなかにいる間にすでにできあがっているのです。
妊娠中のママのお口をきれいにすることでご自身の虫歯予防・歯周病予防につながるのはもちろんですが、お子さんへの感染を防ぐこともできます。つまり、子供を虫歯にさせないための第一歩が「妊娠中の口腔衛生管理」というわけです。
まずは下のグラフをご覧ください。このグラフは、「ママのお口の中の細菌の数」と「その子供が虫歯になる割合」についてまとめたものです。
※ CFU/ml(シーエフユー・パー・ミリリットル)
1mlあたりの細菌数。1mlから1000個の細菌集落(CFU、Colony Forming Unit、集落形成単位)がみられたときは「103CFU/ml」と表示します。
ママのお口の中に存在している虫歯菌(ミュータンス菌)が1万以下(=ほとんど存在していない)の場合、虫歯に感染してしまうお子さんは100人中8~9人程度しかいません。しかし、ママが100万以上の虫歯菌を保有していると、そのお子さんは2人に1人以上という高い割合で虫歯になってしまうことを示しています。つまり、ママのお口に虫歯菌が多いと、子どもも虫歯になる可能性が高くなってしまうのです。
歯科医院で治療やお口のお掃除を定期的にしているママのお子さんと、そうでないママのお子さんの虫歯になる確率をまとめたグラフです。
ママが定期的に治療やお掃除をしていないと、お子さんが虫歯になりやすいことがお分かりになるかと思います。
大切なお子さんの歯を守るために、まずはママから率先してお口のお掃除や治療を行っていきましょう。
世田谷区の「高井デンタルオフィス」では、妊娠中の口腔衛生管理を「マイナス1歳からの予防歯科」と位置づけて重視しています。かけがえのない命がお腹に宿ったときから、お子さんのための「虫歯との戦い」は始まっているのです。
妊娠中でも虫歯治療は受けられます。とくにお腹の赤ちゃんが落ち着く安定期(5ヶ月~8ヶ月)は、治療するにはよい時期です。出産後は育児に追われ、子供の面倒を見てくれる方がいないなどといった理由から、歯科医院に通うことができないケースも多いもの。そうなる前に、母子ともに落ち着く妊娠中期の受診を強くおすすめします。
妊娠初期 (1~5か月) |
妊娠中期 (5ヶ月~7ヶ月) |
後期 (8か月以降) |
出産直後 | 産後1ヶ月~ |
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応急処置程度 | 治療可能 | 原則治療禁止 | 治療可能 |
※ 薬剤の催奇形が問題になるのは、妊娠2~4ヶ月です。
妊娠中はつわりや女性ホルモンの分泌の関係から、下記のような病気にかかりやすいので要注意。お口の中を常に清潔にしておくことが大切です。
1 妊娠性歯肉炎 |
2 虫歯 |
3 妊娠性エプーリス |
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つわりによって口の中が不衛生になることが原因。妊娠初期と出産後に症状が出やすいのが特徴です。 | つわりによってケアが不十分になると虫歯になりやすくなります。嘔吐による胃酸も歯を溶かす原因になります。 | ホルモンバランスの影響で、歯ぐきにこぶができることがあります。上の前歯や下の奥歯にできやすいです。 |
歯みがき粉の味やにおいがつらい方は、刺激の少ないものに替える、ヘッドが小さめの歯ブラシを使うようにするなどの工夫が必要です。また、キシリトールが含まれたガムを噛むことも有効な方法です。嘔吐が心配な方は「うがい」だけでもOK。
- 食後すぐにうがいをし、口腔内に食物残渣を残さない
- 低刺激で香料が気にならない歯みがき粉を使う
- 歯みがき粉自体が耐えられない場合は、ブラッシングだけでもOK
- ヘッドが小さめの歯ブラシを選ぶ
- キシリトール入りのガムを噛む
- ブラッシングがつらいときは、うがいだけでもする
(フッ素入りのうがい薬も効果的) - うがいも苦痛な場合は、小さめの氷をなめる
- 入浴しながら、音楽をききながらなど、リラックスすることもおすすめ
妊娠中は、自分ばかりでなくお腹の赤ちゃんのことも考えなければなりません。マタニティからの予防歯科は、心配なことばかり……。プレママからも、こんな質問をいただいています。
プレママ
歯の治療でレントゲン撮影や麻酔、薬を服用しましたが、お腹の赤ちゃんに影響はありますか?
院長
治療をするのは、基本的に妊娠中期(安定期)になります。レントゲン撮影は防護衣着用だから、放射線の被ばく量はほとんどなし。麻酔量も少なめなので、影響はないでしょう。また、妊娠中の薬は安全性が高いものを処方していますが、それでも不安という方は、かかりつけの産婦人科に確認してみてください。
プレママ
妊娠中の歯の出血は仕方のないことだと言われました。我慢するしかないですか?
院長
妊娠中は歯肉炎の症状が出やすいのです。でも、口腔清掃と歯石除去によって出血は改善されますので、ぜひ一度、歯科医院で処置を行ってみてください。お子さんが生まれてしまうと歯科医院に行けなくなってしまうことが多いので、特に痛みなどの問題がなくても、妊娠中に1度は歯科検診を受けるようにしてくださいね。
プレママ
「親知らず」があって気になるのですが、出産前に抜いた方がいいですか?
院長
「親知らず」は、生えている位置や向き、咬み合わせの状態などによって、抜歯が必要かどうかを判断することになります。「生えているから」といって抜いたほうがいいとは限りませんのでご注意を! 健康状態を見て、一度歯科医院でチェックされるといいでしょう。
プレママ
歯周病になると早産になりやすいって聞いたのですが、本当ですか?
院長
本当です。歯周病菌が子宮の収縮に間接的に働きかけて子宮頚部が拡張し、早産になるリスクが高まると考えられています。妊娠中の女性のうち、歯周病の方とそうでない方を比べると、前者のほうが早産によって低体重児を出産する確率が高くなったという報告もあります。
プレママ
妊娠すると歯が弱くなるのですか?
院長
そんなことはありませんよ! ただし、妊娠によっておこるホルモンバランスの変化やつわりなどによって、虫歯になりやすく、歯肉の炎症が起こりやすくなるのは事実です。そのため、甘いものを控えたり、食べる回数を減らしたりするなど、できるだけ口腔内を清潔に保つことが大切なんです。